2025年11月28日
建築を学び始めたころに初めて手にした製図道具が何であったかは覚えていない。ただ芯研器をガリガリ回しながら、青い柄の芯ホルダーでひたすらにエスキスしたり図面を引いているような学生時代だった。
そんなアナログな時代だったので、A1ドラフターの上はホルダーや消しゴムをはじめ、三スケ(三角スケール)や勾配定規、字消し版、テンプレートといった、『手で描くための道具』であふれていた。
ようやくパソコンにふれることができるようになった大学4年生のころ(まだ一学生がPCを買えるような時代ではない)に、電子メール(インターネットが普及する前の、ごくローカルな通信網の中での文章のやり取りができるシステム)が使われ始め、春休みのバイト先で初めてコンピューターを使用したCADによる製図・立体モデリングを経験することができた。
それまでパソコンでやっていたことと言えば、ワードとエクセルによる文章作成や表計算くらいであり、マウスとキーボードを使って図面を描くのは初めての経験。コンピューターソフトで図面を作成し、これに高さを与えて立体化するというオペレーション自体にも手間取ったが、それ以上に作図のための手段が手からコンピューターに変わったことで、頭が追い付かず、思考もうまくまとまらずに、経験したことのない疲労感をともなう一ヶ月を過ごしたことを鮮明に覚えている。
社会に出て、インターネットが普及し、コンピューターもより身近なものになってくると、もはやCADによる設計は効率化の手段として必須のものとなっていく。それまで握っていたホルダーや製図用シャープペンシルは、マウスとスタイラスペンに替わったし、書く、消す、測るといった設計や製図のための基本作業が、パソコンの中で自動的かつ猛烈なスピードで処理できるようになった。さらには平面処理だけでなくこれを3D化したり、生成AIで立体感や色彩、陰影、奥行を補填しながらプレゼンができる時代にまでなってきた。

ただ何かを考え始めるときには、やっぱり0.9㎜芯の製図用シャープペンシルでさらさら描き始める。CADで作図しながら、これまでとは違うおさまりにぶつかると、スケール無視で手でごりごり描いてみる。お客様との会話の途中で思いついたことを手描きでスケッチしてみる。手を動かすことで頭の中のおぼろげな思考が像を結び、確定的な線に変わっていく、その感覚が好きだ。

時代にそぐわないのだけれども、いまだに自分にとっては手が一番の設計道具のようで、ぼろぼろになったロールペンケースが手放せないでいる。
上左:学生時代から使っている勾配定規
上右:同じモデルで3代目の製図用シャープペンシル
下 学生時代の三スケはボロボロすぎて使えない 定期的に買替えているが、伸縮の少ない竹芯の三スケは少なくなってきている
設計部 大橋